第7章 真珠の首飾りの女(ドフラミンゴ)
ドレスローザの王宮は、その他の王国と比べても特に美しい城。
至るところに伝統ある陶器や絵画が飾られ、国の自慢でもある花々が咲き誇るその様は、まるで一つの芸術品のようだった。
しかし、国民達は知らない。
歴代の国王達の肖像画には、その顔を潰すように上からドフラミンゴのシンボルマークが描かれていることを。
虚しいだけの豪華絢爛。
その象徴ともいえる「肖像画の間」で、ひとつのオモチャが必死に床を磨いていた。
昔はよくここで舞踏会が開かれていたそうだ。
その証拠に、天井からは大きなシャンデリアが吊り下げられ、100人がダンスを踊れるほどの広間がある。
その床を身長50センチもないブリキ人形が雑巾で拭いていると、突然、人影がその小さな背中の後ろに現れる。
「ねえ、お人形さん。私にも掃除を手伝わせて」
そう言いながらブリキ人形の隣に跪き、汚水の入ったバケツに手を入れたのは、胸元が大きく開いた真紅のドレスを着た女性。
「クレイオ様・・・?! とんでもない!!」
驚きのあまり右腕が外れるほど飛び上がった“召使人形”に、クレイオはニコリと微笑みかけた。
「いいの、手伝わせて。それに、ブリキの貴方じゃ水仕事をしたら錆びてしまう」
「いいんです、これが私の仕事ですから・・・」
といっても、人形の小さな両手にはすでに赤茶色の錆び。
このままではいずれ“使い物”にならなくなってしまう。
用済みのオモチャの末路を知っているからこそ、放っておくことはできない。
クレイオはフリルがあしらわれた袖口をまくると、深くスリットが入ったスカートの裾も縛った。
「いけません、クレイオ様に手伝って頂いたことを国王様に知られたら、何て言われるか・・・」
「大丈夫。ドフラミンゴはただ笑っているだけよ」
雑巾をすすぐ濁った水の中に、毎晩のように自分を弄る男の顔が浮かぶ。
「で、でも、クレイオ様は国王様の一番の───」
ブリキ人形がその先を言いかけた瞬間、廊下の方から怒声が飛んできた。