第6章 真珠を量る女(ロー)
頂上戦争の終焉から10日後。
無風海域のカームベルトの中に浮かぶ女ヶ島は、恐ろしく静かな場所だった。
“男子禁制”の島ながら、ルフィを療養させるため特別に上陸を許された、ハートの海賊団。
波も風もなく、ただ日差しが照り付けるだけの海岸に座りながら、ローはジッと麦わら帽子を見つめていた。
「・・・・・・・・・・・・」
アマゾン・リリーの皇帝ボア・ハンコックは、ルフィにかなり執心のようだ。
彼を救った礼として食事を一日三度、“九蛇”の女戦士達がロー達に運んできてくれる。
頂上戦争は、海軍の勝利で幕を閉じた。
白ひげは死に、ルフィの兄エースも死んだ。
自由であることを誇りとする海賊が、支配勢力に屈した形となった。
“エース・・・エース・・・”
ルフィは生死を彷徨いながら、何度もうわごとで兄の名を呼んでいた。
その姿に、10年前の自分の姿が重なる。
“コラさん・・・コラさん・・・”
初めて覚えた“オペオペの実”の能力は、体内に電気ショックを入れ、鼓動を止めようとする心臓を無理やり動かし続けることだった。
もし珀鉛病に負けたら、自分を救おうとしてくれた恩人の死が無駄になってしまう。
“これでいいんだ・・・・・・ハァ・・・お前はもう・・・自分で病気を治せる”
たとえ血を吐こうとも、心臓さえ動いていれば脳も細胞も死ぬことはない。
“コラさん・・・ゲホッ・・・コラさん・・・”
幼いローは珀鉛の毒素を抜く方法を覚えるまでたった一人、恩人の名前を呼びながら自らの心臓に電流を送り続けた。
かけがえのない人を殺された絶望の中で、生きるため。
孤独と痛みに耐え、かろうじて命を繋ぎ止める。
目覚めれば、さらに大きな絶望が待っているだけだろう。
麦わら屋・・・お前はどう生きる?
その時、クレイオの言葉がローの脳裏をよぎった。
“私と貴方は対極にありながら、互いに手を取り合うべき存在かもね”
ドフラミンゴを恩人とするクレイオ。
コラソンを恩人とするロー。
手を取り合うべき存在であるはずがなかった。