第10章 機械仕掛けの海賊はブルースを歌う(フランキー)
「おれは完全なサイボーグを作りてェのよ、チョッパー」
そのチャンスが今、目の前にある。
とは言ってもフランキーの技術は、世界最大の頭脳を持つベガバンクに遠く及ばないだろう。
しかもここは世界最高峰の設備を備えている海軍本部の研究所ですらなく、ただの海賊船の医療室。
それでもフランキーは手を止めようとしなかった。
「自分で捨てようとしていたコイツの命を拾ったのは、このフランキー様よ。どうしようとおれの勝手だ」
「バカ言うな!! おれは医者だ、目の前で見殺しにすることだけはしねェ」
人間化しているチョッパーは、大きな胸を膨らませながらフランキーを睨みつけた。
同時に、二人の後ろに設置されている心電図が異常を知らせるブザーを鳴らし始める。
その数値を確かめたチョッパーはすぐに蘇生措置を始める準備に取り掛かった。
「命は物じゃねェし、ましてや実験台でもねェ。ドクターストップだ、フランキー」
医者として救える命がそこにあるのなら、何があっても絶対に救う。
それは、たとえ海軍の人間と知っていながらも、飢餓状態にあるならば飯を差し出すサンジと一緒だ。
するとそれまで双眼ルーペを着けていたフランキーが初めてそれを外し、強心剤を投与しようとするチョッパーの手を掴んだ。
「ちょうどいい、このまま仮死状態にする。その方が神経と回線が繋ぎやすくなるからな」
「フランキー!!」
「おれに従え、チョッパー」
フランキーの言葉は残酷非道に聞こえた。
そもそもが成功率10%を切る手術だ、“失敗して当然”の挑戦だった。
クレイオの血圧はみるみるうちに下がっていき、すでに危篤状態の域に達している。
すぐに処置を施さなければこのまま死んでしまうだろう。
手術台を挟んで睨み合う、フランキーとチョッパー。
その“覇気”の揺れは、外で待つルフィ、ゾロ、そしてサンジにも伝わっていた。