第3章 PHALAENOPSIS
この会社は、社長自ら立ち上げた。
私は、若輩ながら副社長の肩書きを持っている。
24歳 副社長。
学生時代からのインターンで卒業後、その役職に付いた。
勿論周りの目は、痛かったし、若造呼ばわりは常日頃から付いて回った。
まぁ、今は何とか認められこの社長を動かせる闇参謀と裏で呼ばれているらしい。
誠に遺憾だ。
『社長、何度も何度も言いますが』
「今夜は行くぞ」
『いえ、それではなく。
鰐を放し飼いにするのはおよし下さい!』
ティーカップを優雅に傾ける社長の足元には、小柄ではあるが猛獣レベルの鰐が1匹。
社長のペットだ。
「うん?せっかくの日光浴を邪魔する気か?」
充分餌付けしてあるので無闇に人を襲う事はしないが、それでも抵抗が無くなるわけではない。
「っうか、いつまで社長呼ばわりするんだ?」
『・・・社長は社長です』
「昔みたいにさー、クロ君って、なーぁ」
そう言って手を左右に広げる社長は、飛び込んで来いと視線で訴えてくる。
それに冷たく視線を返す私に、社長は喉奥から笑いを漏らした。
幼少期の頃からの付き合い。
昔呼んでいた名で呼べと言われても、無理な話だ。
「なーぁ、」
「何ですか、社長」
「クハハ、そう怒るなって・・・
そこの花お前にやるよ」
そう言って指差す先には、見事な大輪の花を咲かせた胡蝶蘭。
『・・・結構です』
綺麗な花だが、こう大振りだと場所に困るし何より鉢植えなのも困る。
「そう言うなって、切って持って行け」
社長にこの花の価値がちゃんとわかっているのだろうか。
花なんて愛でない社長は、見事な胡蝶蘭を切ってもいいと言う。
だが、ここで受け取らないとこのまま清掃作業員に処分されるのが目に見えている。
『・・・今夜は私も商談に出席しますので明日頂きます』
切っていいのなら2〜3本切らせてもらおう。
美しく咲いた白い花弁に私は、少し触れて答えた。
胡蝶蘭の世話は、手間暇が掛かる。
ここの花も会社内の観葉植物を世話してくれている人に頼んでいた。