第2章 口内炎
「ロ内炎?」
「うん、そう。なったでしょ?」
「ならない」
「へっ?」
変な声が出た。
「口の中思いっきり噛んでたじゃない」
「噛んだけど、治った」
「うそ一!」
絶対悪化してると思ったのに!私よりひどいだろうと思ったのに!
まじまじとメアの顔を覗き込んでみたけれど、嘘をついている様子はない。少し首を傾げてこちらを見ている。
すると、あまりにも私が信じられないといった表情をしていたのか、きょとんとしていたメアが不意ににたぁっ…と笑った。
あ、嫌な予感。
「アリス、ロ内炎できたの?」
「え?いや出来てナイヨ?」
「嘘つくの下手すぎだろ。見せて」
「なんで!」
「見たい」
「だからなんで!」
ずいっとメアが近寄ってくる。その分後ずさる私。
まずいなぁ、出口はメアを挟んだ向こう側だ。そして私の視線を読み取ったかのように、メアが私の真前に回って出口を隠す。
これは流右に私でもわかりますよ、メアの行動パターンは随分学びましたから、ええ。
「見せたらいじる気でしょ」
「どうしてそう思うんだよ」
「だってすごい目が輝いてるんだもん!」
そう、心なしか瞳がいつもより輝いているのだ。なぜか嬉しそうにもしている。
なぜか。
「…ちょっと、何でこっち来るの」
「アリスが逃げるからだろ」
「メアがこっちに来るからでしょ!」
私の背後には本棚がある。このままでは壁ドンならぬ本棚ドンされるのは目に見えていたけれど、逃げようにも逃げる隙がない。メアがまるで長年追い続けていた獲物を見つけた猟師のように、爛々と目を光らせながら迫ってくるのだ。