第1章 (死んだら困る)
どうするんだろう、と思いながら見守っていると、メアは自分もソファに座り込み、そしてごろんと横になった。
ふわふわの髪が私の腿にぽすんと乗せられ、きょとんと瞬く私をじっと見た後、すぐにキュアランの本で隠してしまう。
「膝枕されたかったの?」
「……わざわざ聞くか、そんなこと」
「ふふ。どうぞゆっくりしてください」
「ん」
口調はぶっきらぼうだけど、これ、絶対恥ずかしくなってるんだろうなあ…。本の下でどんな表情をしているのか非常に気になったけれど、本を退けて見たら絶対に怒りそうなのでやめておいた。
といってもすることが何もない。お茶も淹れ損ねたし、キュアランの表紙ばかり見下ろしているのもつまらないし、私も何か本でも読もうかな…。
ここの本棚にある本は自由に呼んでいいとメアから許しをもらっている。まがりなりにも他国の姫に対して不用心なんじゃないかと思うけど、信用されていることはとても嬉しい。
腰をよじって背後の本棚を見上げ回し、少し上の位置に気になる表紙を見つけて、腕を伸ばした。ぎりぎり手が届く。
メアの邪魔をしないように、体は極力動かさないようにしながら、本の下側に指を引っ掛けてゆっくりと引き出して。
「ん…」
……もうちょっと…、落ちてくるところを手で受け止めれば、
と思ったら。
革製と思われるハードカバーの厚い本が、思いの外ずるっと滑り落ちてきて、ページを開きながら私の頭上に。
「ゃ…っ」
ばしっ
「………っ、…?」
ぶつかる、と思って、咄嗟に肩をすくめメアの上を腕で庇ったけれど、予想していた衝撃はこなかった。
そろそろと目を開けると、すらっと伸びたメアの腕と、その先でがっちり本を捕まえる骨ばった手。
呆れたようにこちらを見る瞳。
「はぁ………何やってんの」
「び…っくりしたぁ…!死ぬかと思った!」
「……」
まだ心臓がドキドキ言ってる。ていうかよく取れたなぁ、メア。
キュアランの新刊とメアを傷つけずに済んでよかった。そうホッとしていると、メアは無言で本を脇に置いて身を起こし、腰をよじると私の肩に手をかけた。
妙に真剣な顔で、ゆっくりと。
「え…、何?新刊、大丈夫だったよね?」
変な心配をする私をよそに、メアはそのままするっと私の懐に入り込んで、
胸にひたっと頬を寄せてきた。