第50章 心は影に押されて…*茶倉
「おい、黒子!行くぞ!」
たーくんの声が遠くに聞こえる。
「………茶倉さん。」
テツくんの小さな声がやけに大きく聞こえた。
「ボクは茶倉さんの決めたことに従います。茶倉さんが大切だから、あなたの気持ちを尊重したいんです。」
その声はいつにもまして優しく感じられた。
「では、行きますね。」
テツくんはくるりと背を向けた。
「………ありがとう!冬、会おうね!」
その背に向かって、声を届ける。
一瞬、テツくんの体が震え、立ち止まる。
そしてテツくんはゆっくり振り返り、こちらを見た。
「ボクはまだあなたを諦めたつもりはありませんから。…ではまた。」
その笑みは優しいものではなく、いたずらっ子のような妖しいものだった。
「どうしたの?優、行くわよ!」
「あ、はい!」
誠凛の皆さんが去り、紅子先輩に声をかけられるまで、私はその場を動けなかった。
身体は変に熱を帯びていた。