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君の音、僕の音。〜梶裕貴〜

第3章 Episode2 #悪夢


『どこ………?』

温かな家の中。
とてもとても広い家の中。

〈お母様〜!おかえりなさい!〉

私の前に現れた少女は、私の方へと走ってきた。私が戸惑いながらも、一歩前に出て手を差し伸べようとすると、少女は私を通り抜けて走っていった。彼女には私が見えていない、ということだ。

〈ただいま〉

少女のお母様、は走っていった少女をしっかりと抱きしめた。顔はぼやけていてあまり見えない。でも、透き通った優しい声からはとても綺麗な女性だということが連想された。

〈いい子で待っていた?〉

母親の問に少女は力いっぱい頷いた。





そこから更に時間が進んだ。
早送りをしたような景色に、少し目が回った。

〈どうしてお母様はいつもそうなの!?私の将来のことばかりで、全く私の意見を聞いてくれない!〉

そこには、以前の温かな家の中にいる成長した少女だった。彼女はすごく怒っていた。よくある、思春期、とかいうやつだろうか。

〈落ち着いて、私は……〉

母親が何か言おうとしたが、それを彼女は遮った。

〈お母様なんて大嫌いっ!〉

そう言って家を飛び出した。
温かな印象だったこの家は、とても冷たく感じた。

〈待って!〉

母親も家を飛び出した。
そして、なぜか私もつられるようにして家を出た。

家を出ると、そこは道路のど真ん中だった。

すると、大きなトラックが走ってくるのが見えた。避けようかと思ったけど、ここのものは全て私をすり抜けられるから大丈夫だ、とそのまま道路のど真ん中に立ち続けた。私だって、いい加減気付いている。ここは夢の中だ。そして、まだ覚めないということは、まだ何か見せたいものがあるのだろう。

だから、抗うことなく、大人しく従うことにした。

トラックがあと100mくらいまで来た時、少女が飛び出してきた。夢だと知りながらも、私はいてもたってもいられなくなり、夢中で叫んだ。

『だめ!今すぐ引き返して!』

でも、夢の住人である彼女に私の声など届くはずがなかった。

引かれる……!

そう思った時。

〈危ない!〉

彼女の母親が飛び出してきた。
そして、彼女の背を押す。

タイヤの擦れる嫌な音と、何かがぶつかり合う音が頭の中に響いた。

『あ………ぁっ、あぁあぁああぁあああ!!!』

赤に染まった道路が目に焼きついて離れなかった。
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