• テキストサイズ

君の音、僕の音。〜梶裕貴〜

第2章 Episode1 #約束


「ごめん」

突然、なぜか梶くんが謝罪した。
誰に?そう聞こうと思ったけど、ここには私達2人しかいないのだから、その謝罪は他の誰でもなく私に向けられたものだろう。

『どうして謝るの?』

私は優しく彼に言葉を掛けた。
すごく落ち込んだ顔をしていて、放っておけなかったのだ。

「来るのが遅くなったから……ごめん」

許してあげたい。笑い飛ばしてあげたい。でも、出来ない。だって、私は自信(自身)が無いから。だって、実際、私は結構それについて悩んでいたし、傷ついていたから。

でも、私には怒る勇気もなければ、怒る義理もない。

だから、あえておどけてみせた。

『ほんと、遅すぎ』

笑ってみせた。
はずなのに。


彼は傷ついた顔をしていた。

「どうして……」

その先は黙り込んで教えてくれなかった。でも、なぜ、どうして、と聞いたのだろう。逆に私が聞きたいくらいだ。

どうしてそんなに傷ついた顔をするのか、と。

「なんでもない。ごめん。仕事が立て込んでいて、なかなか来られなかったんだ」

そう、笑顔を取り繕う。
だから、私は気付かないふりをした。気付かないふりをして、私も笑顔を取り繕った。

『いいよ、それくらい。お仕事大変なのに、私が勝手に約束を……………』

そこまで言って止まってしまった。

彼は、約束を守りに来た、と言った。
つまり、彼は私の意図に気付いていたのだ。気付いていたから、私に遅れてごめんと謝ったのだ。

彼の心からの謝罪を私は冗談で片付けた。

傷ついて当然だと思う。
私は彼の思いを踏みにじったのだから。
傷つくどころか、怒って当然だと思う。





でも……………


それなら、私は彼になんと返せば良かった?
分からない。
分らない分からない分からない。


〈私〉なら、なんと答えた?
/ 65ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp