第2章 Episode1 #約束
「ごめん」
突然、なぜか梶くんが謝罪した。
誰に?そう聞こうと思ったけど、ここには私達2人しかいないのだから、その謝罪は他の誰でもなく私に向けられたものだろう。
『どうして謝るの?』
私は優しく彼に言葉を掛けた。
すごく落ち込んだ顔をしていて、放っておけなかったのだ。
「来るのが遅くなったから……ごめん」
許してあげたい。笑い飛ばしてあげたい。でも、出来ない。だって、私は自信(自身)が無いから。だって、実際、私は結構それについて悩んでいたし、傷ついていたから。
でも、私には怒る勇気もなければ、怒る義理もない。
だから、あえておどけてみせた。
『ほんと、遅すぎ』
笑ってみせた。
はずなのに。
彼は傷ついた顔をしていた。
「どうして……」
その先は黙り込んで教えてくれなかった。でも、なぜ、どうして、と聞いたのだろう。逆に私が聞きたいくらいだ。
どうしてそんなに傷ついた顔をするのか、と。
「なんでもない。ごめん。仕事が立て込んでいて、なかなか来られなかったんだ」
そう、笑顔を取り繕う。
だから、私は気付かないふりをした。気付かないふりをして、私も笑顔を取り繕った。
『いいよ、それくらい。お仕事大変なのに、私が勝手に約束を……………』
そこまで言って止まってしまった。
彼は、約束を守りに来た、と言った。
つまり、彼は私の意図に気付いていたのだ。気付いていたから、私に遅れてごめんと謝ったのだ。
彼の心からの謝罪を私は冗談で片付けた。
傷ついて当然だと思う。
私は彼の思いを踏みにじったのだから。
傷つくどころか、怒って当然だと思う。
でも……………
それなら、私は彼になんと返せば良かった?
分からない。
分らない分からない分からない。
〈私〉なら、なんと答えた?