第1章 憧れの騎士様
日程の見積もりをお出しする為に、預かった鞄を専用の布で丁寧に拭きながら細部を確認していると、ふいに頭上から声が降ってきた。
「それ、古いだろ?」
この鞄はアラン様の亡くなったお父様のものだと話してくださった。
「大切にお使いなのが一目見た時からわかりました。修復、がんばりますね。」
これは職業病なのか、私の変な"癖"なのか…大切に扱われていた物に触れると、思わず身体中が高揚してしまう。
まるで恋をしているかのように、作り手のこだわりや仕事に触れられるのが嬉しい。
「楽しそうだな」
そんな私を覗きこむアラン様の優しい瞳と目が合った。
「お前、名前は?」
私がこのお店に来てから、アラン様がいらっしゃるのは、10回に満たないくらいだったかと思う。
いらっしゃるたびに少しずつ話も増えていたけれど、まさか名前を聞いてくださるなんて。
「=です。」
名乗ると、アラン様はふっとひとつ笑みをこぼしてから、
「、この後時間あるか?」
今日はお客様にお渡し予定の物もないから、お店を閉めても大丈夫なことを伝える。
「じゃあ、飯でも食わないか?今日は1日非番なんだ。」
「え?ご飯?」
アラン様のびっくりな発言に、思わずそう言ってしまえば、少し笑いながら、
「嫌か?」
と聞かれた。
嫌なわけがない!と、言葉にする前に、ぶんぶんぶんと首を振る。
「じゃ、決まりな。作業の手を止めて悪かったな。」
すっかり手を止めて、手入れをする為の布をぎゅっとにぎりしめている私に、アラン様は笑って言った。
いてもたってもいられなくて、お店の看板を「準備中」に替えた私は、アラン様に更に笑われながら、
「おい、そんなに喜ぶな。」
なんて言われて、穴があったら入りたいほど恥ずかしかった。
だって!アラン様とご飯を食べるなんて…夢かもしれない…だったら、覚めないうちにその夢が見たい。