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23時、エレベーターにて

第4章 4【MOMIKEN SIDE】


エレベーターの中での出来事を反芻しながら自室に戻り、少し放心し、ベランダで煙草を吸っていた。
煙を吐き出し、その白い靄の行く末をぼんやりと眺める。どこかにたどり着く前に消えるそれは、なんだか幻のようだった。
ベランダからの景色はなかなか悪くない。
静かで、遠くの夜景がきらきらしていて、その細やかな光の明滅が心地良かった。

まだ心臓がどきどきしている。

やけに出来過ぎた話だと思うが、彼女の唇の柔らかさ、匂い、抱きしめた時の細い身体の感触を思い出し、気分が高揚していく。
誰かと付き合うのは久し振りだった。
向こうから寄ってくることもあるけれど、あまり乗り気がしなかったのは、多分、自分が壁を作っていたせいだろう。
なんだかMOMIKENとしての自分を好きな女の子は、自分を分かってくれない気がして、嫌だった。
けれども、それこそ、自分自身が彼女たちを分かろうとしていない証拠かもしれない、と思った。

高校の頃にすごく好きだった彼女がいて、今でもよく覚えている。
さん、にも、そういう人が居たのだろうか。
自分の過去を大事にしている癖に、彼女の過去に嫉妬している自分が情けない。
俺はさんを、大事にできるだろうか。
過去を、越えて。

さん、そういえば名字を聞くのを忘れてしまった。
具体的には何歳で、何をしている人なのか、生まれはどこで、何が好きなのか…。

考えれば考えるほど、妙にそわそわして落ち着かない。
連絡しようかな、と思いつつ、午前2時を回っている時計を見て、ため息をついた。

部屋に戻り、冷やしておいたビールを取り出す。
明日も仕事なので早く寝た方が良いのは明白だったが、どうしようもなかった。
ぷしっと蓋を開けて、ごくごく飲んでいく。
冷たい液体が喉元を流れていって、火照った身体全身にしみていった。

もう、みんなは寝ているだろうか。
誰かと話したい。
そうじゃなきゃ、この行き場のない気分をどうしたら良いのか、持て余すばかりで、一人で「あーーーーーっっっ」と悶えていた。
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