第39章 Daylight
その後房を出た俺は、処遇管理棟へと連れていかれた。
ここで二人の刑務官ともおさらばだ。
「お世話になりました」
俺は二人の刑務官に向かって頭を下げた。
刑務官は特に言葉を発することなく、規則正しく敬礼をして見送ってくれた。
規則とは言え、言葉の一つも交わせないことに、若干の寂しさを感じながら会計課の一室へと入った俺は、そこですっかり身体に馴染んでしまった刑務服を脱ぎ、保護司でもある長瀬さんの計らいで用意された真新しい服に着替えた。
久しぶりに刑務服以外の物を身に纏うと、なんとなく…だけど気恥ずかしさを感じた。
それから会計課へと連れていかれた俺は、そこで刑務作業で得た僅かばかりの賃金(作業報奨金)と、逮捕時に所持していた金(領置金)を受け取り、漸く塀の外へと続く長い廊下に出た。
窓から見える景色は、それまで見てきた物とそう大して変わりはない筈なのに、どこか違って見えるのは、格子のない窓から降り注ぐ、暖かな日差しのせいだろうか…
足取りだって、不思議なくらい軽い。
長い廊下を抜け、漸く辿り着いた扉の前で、刑務官が足を止め、最後の鍵を解錠する。
そして扉が開かれた瞬間、燦々と照り付ける日差しに一瞬目が眩み、俺は咄嗟に手で視界を覆った。
「どうした、出なさい」
刑務官に背中を押され、俺は扉の外へと足を踏み出した。
「兄ちゃん…、智兄ちゃん…」
聞き覚えのある声に、俺は視界を遮っていた手を下ろすと、霞む視界に目を凝らした。
外界との境にある鉄製のゲートの向こうで、大きく両手を振る人影…
「侑…李…?」
俺は一瞬後ろを振り返ると、微かに笑を浮かべた刑務官に頭を下げた。
「お世話になりました」
「いいから行ってやれ。待ってるぞ?」
「ああ…」
俺は今にも駆け出したい気持ちを抑え、一歩ずつ足元を確かめるように、ゲートに向かって足を進めた。