第10章 【甘】彼はズルイ人/照島遊児
何も言わず、逃げるように(というか、実際逃げたんだけど)、教室をあとにした私。重なった唇が妙に熱を帯びていて、体も熱い。別にファーストキスじゃない。あんな濃厚なキスも初めてじゃない。けど、その相手は勿論彼氏な訳で、ただのクラスメイトとキスなんて初めてだ。しかも、相手はあの照島君だし。
私の通う条善寺高校は割と校則も緩いせいか、ちょっと不良っぽい生徒が多い。全員が全員不良かと言われればそうじゃないけど。髪を明るく染めていたり、がっつり化粧をしていたり、ピアスを開けていたり。勿論真面目な生徒も沢山いる。私は間違いなく後者。地味で目立たない、例えるなら雑草みたいな。
先程私にキスをしてきたのは同じクラスの照島君。明るい人柄で、クラスの人気者。その派手な容姿は、女の子の目を惹くには充分で、照島君の周りにはいつも可愛い女の子達がいた。そんな彼を遠目で見るしか出来なかった私が、まさかキスを、しかも濃厚なやつ。それも学校で。思い出せばまた体が熱くなる。
正直、照島君みたいなタイプは怖いし、苦手。実際、初めて照島君を見た時は怖い人だと思ったし。だって舌にピアスなんて、早々いないでしょ。お友達も派手な人ばっかりだし、いつも違う女の子と一緒にいた。
住んでる世界の違う人。
照島君は正にそれ。そんな彼となるべく関わらないようにしようと思ったのに、楽しそうにバレーをする照島君の笑顔に心を撃ち抜かれてしまったのだから仕方が無い。いつも笑ってるけど、バレーをしてる時の照島君は、なんていうか無邪気な少年って感じで、なんだか可愛いと感じてしまった。重症である。
そんな照島君とは、一、二年同じクラスというだけで、特別仲がいいとかそんな訳じゃなかったのに、なんでこんな事に。