第27章 【切甘】ホンキ/照島遊児
照島君にキスの事は二人だけの秘密にして欲しい。いや、寧ろ無かった事にして欲しい。出来れば告白もセットで。そう言いたかったのだけど、休み時間、照島君は常に大勢の友達に囲まれていて、その輪の中に入って照島君を呼ぶのは避けたい。特にこれといって親しい間柄でもないのだから、そんな事したら目立つし。でも、照島君が一人になるのを待っていたらその間に照島君は誰かに話してしまうかもしれない。時は一刻を争うのだ。
「て、る、しまくん、ちょっと、」
大勢の友達に囲まれ、楽しそうに話をしている彼に意を決して話し掛けた。普段喋りかけない私が照島君に話し掛けたせいか、照島君の周りにいた友達が一斉に私を見た。照島君と仲のいい人達はどの人も不良っぽくて怖い。そんな彼らに一斉に見つめられ、怖いと思わない訳がない。
「どうしたの遥香ちゃん?」
「ここじゃちょっと、」
「俺と二人で話がしたいの?」
相変わらず意地悪な笑みを浮かべ、周りに誤解されるような言い方をする照島君。案の定、冷やかしの声が上がる。そんなからかいに慣れてない私は、恥ずかしさでいっぱいで、熱くなる目をぎゅっと瞑り、それに耐えた。
「まあ、いいや。」
私の肩を抱き歩き出した照島君。触れられた肩から熱がじわりと広がる。そして、人気の少ない非常階段に着くと、照島君は私の肩から手を離した。それを少し寂しいと感じてしまうなんて。
「話って何?」
「こないだの事なんだけど、」
「こないだ?」
こないだの事と言えば分かるでしょ?なのに、何のことか分からないといった表情を浮かべる照島君。…絶対態とだ。
「キ、ス、した事なんだけど…。」
「またして欲しくなっちゃった?」
「ちが…!そうじゃなくて、…アレ誰にも言わないで。」
「なんで?」
「なんでって…、」
そんなの恥ずかしいからに決まってる。
「…別にそれはいいけどさ、」
「本当?」
「遥香ちゃんからキスしてくれたら秘密にしててあげる。」
「はあ!?」
「嫌なら別にいいよ。戻ったらなんの話って聞かれるだろうし、キスしたの秘密にしててって言われたって言うだけだし。」
そんな事照島君が口にすればあっという間に噂は広がるだろうし、その噂を聞きつけたギャルに取り囲まれる自分の姿が安易に想像出来た。