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【WJ】短編

第26章 【甘】その距離、0cm/瀬見英太


「じゃあ次は遥香ね。はい。」


 いつの間にか進行係になっている天童さんは、新しいポッキーを取り出し、私に差し出した。


「いや、でも、…その、」


 それを受け取ってしまえば、さっきの五色君と同じく、瀬見さんとポッキーゲームをしなければならなくなってしまう。先輩の意見に反抗心がある訳ではない。他の事であれば喜んで先輩の意思に従う。が、これを受け取ってしまうということは私も先程の五色君同様、部員達の前でポッキーゲームをしなければならないといけない。私だって一応女だし、人前でそんな事をするなんて恥ずかしい。


「そんじゃあ、監督来る前にサクッとやっとこうか。」


 確かに、この状況を監督に見られでもしたら怒られるだけじゃ済まないだろう。けど、私は瀬見さんとポッキーゲームをする位なら、監督に死ぬ程怒られたい。監督の罵声を笑顔で聞く自信だってある。なのに、今日に限って唯一の助け舟である監督はまだ来ない。


「瀬見さん…、あの、私…、」


 やっぱり出来ません。その言葉は無情にもポッキーを口に咥えさせられ遮断され、反対側のポッキーを瀬見さんが咥えた。そして、近付いていく距離に、五色君と同じく、後ろに引くことでポッキーを折ってゲームを終了させようとしたのに、伸びてきた瀬見さんの手に後頭部を掴まれ、後ろに引くことが出来なかった。そして、短くなっていくポッキー。あ、やばい。そう思った瞬間、唇に触れた暖かく、柔らかな感触。部員達から冷やかしの声が聞こえた。ポッキーは折れる事なく、ゲームは終了。つまり、瀬見さんと私はキスをしてしまったのだ。


「引き分けだね。」


 ペロリと唇を舐める瀬見さん。そのなんとも艶かしい姿に私は腰が抜けた。


「瀬見さん!今度は負けません!もっかいやりましょう!」


 五色君が新しいポッキーを手にし、瀬見さんに勝負を挑んだ時、監督がやって来た。そして、部活中お菓子を手にしていた五色君はそれはもう、物凄い勢いで怒られた。


「遥香、今度は二人きりの時にポッキー無しでやろうか。」


 耳元でそう瀬見さんに囁かれた。私は当分立ち上がる事が出来そうにない。



              …ℯꫛᎴ


2016/11/11 Happy Birthday

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