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【WJ】短編

第15章 【甘】弱虫の一歩/西谷夕


 夕君と出会ったのは、今年の二月のこと。バイクの調子が悪くて、久しぶりにバスに乗ったら、バスが混んでた事もあり、激しい車酔いに見舞われ、目的地にたどり着く前に途中下車をし、烏野高校最寄りのバス停で降り、蹲っていた。バスを降りてからも不快感は治まらず、激しい吐き気と頭痛。通り過ぎる人達から痛いくらい視線を浴びた。


「大丈夫ですか?」


 不意に声をかけられ、顔を上げると、そこには烏野高校の制服を着た小柄な男の子。前髪だけ金色に染められ、私はヤンキーに声を掛けられたと、かなりビビった。見た目だけなら、多分私も同じカテゴリーなんだけど、私の場合見掛け倒し。


「車酔いしちゃって…、」


 ビクビクしながらも絞り出した声。それに彼はちょっと待ってて下さいと言って何処かへ行ってしまった。


「これ、どうぞ。」


 戻って来た彼の手元には炭酸水とミントのガム。それを受け取らない私を見て、彼はペットボトルの蓋を開け、半ば強引に私にそれを押し付けた。言われた通り、それを飲み、続いてガムを口に入れられた。ミントの爽やかな香りが口いっぱいに広がり、さっきまでの不快感が和らいでいった。


「あ、お金、」
「いいですよ。」


 そう言って笑う彼に、心臓が高鳴った。


「ありがとう、もう、大丈夫そう。」


 眩しすぎて彼の顔が直視出来ない。…どうしよう、相手は高校生。小さいし、多分一年生。ダメ、ないない。高校生相手にそんな、ないない。そう言って自分の気持ちにブレーキを掛ける。親切にしてくれた彼に下を向いて顔を見ることすら出来ない私、失礼だとは分かっているけど、なんて思っていたら首元に彼が先程まで使用していたマフラーを掛けられた。


「今日スゲー寒いから、体冷やさないようにしてくださいね。それじゃあ失礼します。」
「え、ちょ、」


 あげます。そう言って彼は足早に去っていった。名前も知らない、年下の彼。そんな彼を好きになってしまった。相手は高校生。見た目こそはあれだけど、二十年間、真面目に生きてきたつもり。逢崎遥香二十歳、どうやら未成年者に恋をしたようです。


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