第19章 緋色の夢 〔Ⅳ〕
何も答えずに視線を逸らして黙っていると、舌打ちが聞こえた。
「んだよ、まだ怒ってるのかよ? 」
あんなことされれば、誰でも怒る。
普段、どれだけこっちが我慢をしてるか、少しはわかればいい。
体を背け、一向に何も答えようとしないハイリアの肩に、ジュダルは後ろから腕を絡めてのしかかってきた。
「もろに入ったもんな、そんなに痛かったか? 」
まるでご機嫌伺いしているような優しげな声で、ジュダルは言ってきた。
肩を抱き寄せて、優しいような振る舞いをしてきたって、今日は許さない。
いつもこういう一時の態度に誤魔化されて、どこかでこちらが折れてしまうからいけないのだ。
甘い考えはもうよそうと思う。結局、反省させなければ意味がないのだから。
「そんなに怒るなよ、ハイリア。ほら、赤くなってねぇし大丈夫だよ」
ほとんど見もしないで額に手を当てて触れてきたジュダルの手を、無言で掴んで振り払った。
こちらを横から覗き込もうとしてくるジュダルから顔を背け、視線をそらす。
「めんどくせぇ奴だな……。悪かった。これでいいか? 」
軽々しく言ったジュダルの言葉には、当然感情なんてこもっていない。そもそも謝る気がみられない。
素直に「ぶつけて悪かった」という一言が、なぜこの男は言えないのだろうか。
「なぁ、あいつに何か言われたりしてねーよな? 」
そんな心配そうな声で質問してきたって、ちゃんと謝るまで返すつもりはない。
「まだ無視するのか? おまえも強情な奴だな……」
ジュダルのため息が首筋に当たった。
「そんなに口がきけないなら、声を出したくなるようにしてやるよ」
耳元で言われ、息が当たるくすぐったさに背筋がぞくりとした。