第3章 演練
「それじゃあ、私は彼に一万円」
「えっ」
今剣が私の顔を見上げる。
私は、少しだけ意地悪く笑うと、「見ててごらん」何て彼に言った。
そして、演練は私の言った通り、彼の圧勝であった。
娘は相当ショックであったのだろう。呆然としている。
「そ、んな………」
彼女の今までの様子を見るに、彼女はそれなりに強かったのだろう。それこそ、ここまでの敗北なんて知らなかったのではないだろうか。
私は今剣と、五虎退の手を離して、彼女に歩み寄った。
「早く、彼等を手入れ部屋に連れていってあげなさい。」
私が言うと、賢い彼女はハッとして自分の刀剣達に走りよった。
「見事ですね。流石に、言うだけのことはあります。」
「随分と上から目線だな。それが貴様の本性か。」
「本性も何も。貴方と私は初対面じゃないですか。私は貴方の何も知らないし、貴方も私を知らない。互いを知らない今、私達に言い合える事はありませんよ。」
「……………はははは!!言いよるわ!ならば、次はお前が相手か。娘」
「構いませんよ。私は何時だって、覚悟できています。」
「上等。」
適当に言い合って、私は刀剣達を振り返る。
『いけるかな?』
口パクで言うと、山姥切が口を動かす。
『当前だ』
私に不安などなかった。
彼等の強さは、誰よりも私が知っている。
信頼、なんて言葉では足りないのだろう。
私に出来る全てを、彼等に与えてやりたいと思う。
傷ついた彼等に、時間を与えてやりたいとも思う。
言葉に出来る何では足りないから。
私は変わらずに、ここに居るのだ。
戻ってきた娘と、頭を抱える青年の前で、私達の戦いが始まる。
「それでは、始め!!」
娘のかける声を聞いて、私は指示を出した。
演練場の広さなんてものは、そんなにない。
あくまで一つの屋敷の庭なので、隠れる場所は互いにないし、攻撃を防ぐ手段も多くはない。
袋叩きや待ち伏せなんてものは、論外。
ほとんど、一騎討ちに近い六体六。
ただ、それでも複数で叩く方法はある。
一人が複数を相手する………つまり、囮になればいいのだ。
残酷だが、それならば何とかなる事もない。
そして、彼は状況によってそれをさせられる審神者だ。
彼等の間にある絆は、それを可能としている。
顔色一つ変えずに命令する彼と、それに応える刀剣。
それは確かに、私の求める審神者の一例なのだった。
