第10章 夢路
二宮は俺達が乗り込むのを確認するとライトをつけて車を出した。
夜景が流れるように車窓を滑っていく。
「海…行きてえな…」
「行こっか…翔…」
ぎゅっと手を握ってくる智は、前を見ながら微笑んでいた。
「二宮…千葉に走らせてくれ」
「わかりました」
Uターンして、首都高の入り口に向かった。
車は俺達の夢の家へと、道を走らせていた。
シゲの居るマンションの前を再び通りかかった時、車の前に男が飛び出してきた。
「伏せろっ…」
銃声が何発も響くと車は急停止した。
男が逃げていくのが見えたから、咄嗟に智を連れて車外に出た。
助手席のドアから出た二宮に智を預けて車に戻ろうとした。
「待てっ…翔、動くなっ…」
智の怒鳴り声が鼓膜に響いた。
「そんなでかい声出すなよ…」
急に足から力が抜けた。
なんとか踏ん張って振り返ると、智の胸から血が流れていた。
「え…」
二宮が智を支えようとするのがスローモーションで見えた。
「さと…し…?」
その時、また銃声が響いた。
車が弾かれる音がした。
「翔さんっ…伏せてっ…」
二宮の声が頭を揺らす。
「翔…こっちに…」
智の声が銃声にかき消される。
血まみれの手が俺に伸ばされる。
その手を掴んで智を抱き寄せた。
深く口付けると智の耳もとに口を寄せた。
「愛してる…」
そのまま俺は駈け出した。
車の向こうに回ると、そのまま銃声のした方向へ走りだした。
「智…さと…し…」
抱きしめた智のぬくもりを思い出した。
手のひらに残る、智の感触を思い出した。
前方に男が走っていく影を捉えた。
歯を食いしばってそれを追った。
腹が痛かった。
手を当てたらぬるりと滑った。
ああ…そうか…
暗くなる視界に男の影を捉えながら俺は走った。
急に俺の身体は横にふっとんだ。
遅れて銃声が響いた。
身体がばらばらになるような痛みを感じた。
動けずアスファルトに爪を立てて起き上がろうとした。
智ぃ…
ごめんな…
連れてってやれなくて…
黒い革靴が視界に入ってきた。
俺は最後の力を振り絞ってその革靴の主を見上げた。