第33章 うつつ夢列車
痛い。
まるで頭に亀裂が入ったかのようだ。
思わず両手で頭を抱えて背を丸める。
軋む痛みは一度だけだったが、無視のできない不可解で鋭い痛みだった。
「大丈夫っ? ほら此処に座ってっ」
姉の手に促されるままに縁側に腰を下ろす。
「陣痛? まだ予定日には早いはずだけど…っ」
「ちが…違う、の。姉さん。私」
頬を包んで顔を覗き込んでくる。姉のその顔はよく知っていた。
知っているからこそ違和感が残る。
(なんで?)
昔から姉の顔はこうだった。
目尻や口元。髪の質。自分に似ているところはあれど、似ていないところもある。
姉だから魅せられる優しい笑顔も、心地良い声色も、華やぐような空気も。
「わた、し」
姉のことならなんだって知っている。
昔からそうだ。
『姉さん、姉さん』
『なぁに? 蛍ちゃん』
鬼殺隊になるずっと前から。
二人きりで生きていた頃から。
「…姉さん?」
「なぁに?」
姉は何も変わっていない。
「…ねぇ、さん…体、は…?」
健康だった頃の姉の姿は脳裏に焼き付くように残っている。
それと同じに、病に倒れて寝たきりになってしまった姉の姿もよく憶えていた。
どんな姿の姉でも、蛍には変わらず大切で愛しい存在だったからだ。
目を逸らすことなどしなかった。
皮膚や髪がぼろぼろになろうとも、骨が浮く程に痩せこけようとも、いつも布団の中で迎えてくれた姉の腕の中に真っ先に飛び込んでいた。
「あんなに、酷かった体…治った、の?」
医者には完治は無理だろうと言われていた。
身売りをしていた為に感染した、原因不明の流行病だろうと。
刻一刻と、帰宅する度に酷くなっていく姉の姿。
見る間に憔悴していった姿もまた、蛍の脳裏に焼き付いている。
忘れられるはずがない。