第32章 夜もすがら 契りしことを 忘れずは
「は…っ杏、寿郎…着物、が…」
「脱がないでくれ」
「え…?」
普段使いを促しても、始終大切そうにアネモネの着物を扱っていた蛍だ。
その反応は予想していたもので、だからこそ皆まで聞かずに押し通した。
「蛍の肌も味わいたいが、今の花嫁姿も見ていたい。今宵はこのままの姿で抱かせてくれ」
一糸纏わぬ姿も見てみたいが、それ以上に今は限りある蛍の姿を堪能していたかった。
疑問形で問うことはなく押し通す杏寿郎に、蛍の眉尻が困ったように下がる。
「でも…皺に、なっちゃう…」
「なればまた洗濯して綺麗にすればいいだけのこと。あまりこの着物を大事に扱ってくれるな」
「そんな」
「俺は着物よりその中に隠れている、この体を大事に扱いたい。だから悪いが君のその申し出は聞かない」
「杏…んっ」
言葉通りに、蛍の唇を塞いで言葉を奪う。
味わうように上顎や小さな舌の裏側をくすぐれば、濡れた呼吸を乱す蛍が縋るように手を差し出した。
求めるような手つきは了承のサインか。
つぶさに蛍の反応を五感で拾い上げながら、休むことなく前戯を重ねていく。
帯の上で実りを隠していない両胸を、ゆっくりと揉みしだく。
掌全体で包むように握りながら、先端は親指と人差し指でこりこりと摘み刺激を送る。
偶に吸い付きの合間に小さな主張をするその先端を甘噛みすれば、ぴくんぴくんと白い体は柔く踊った。
「は…っぁ、も…っそこ、ばっかり…ッんァっ」
「味わえば味わう程、甘みを増すようで美味いんだ」
「っそんなわけ…ばか」
恥じらいを含んだ罵声は、ひどく甘い。
本当に甘みを感じるような胸に顔を埋めて、杏寿郎は口角を緩めた。
「ならば俺にだけ感じる味なのだな。花の蜜のようだ」
「ァんッ!」
ちぅッと跡を残すような勢いで強めに吸い上げる。
仰け反る反応を見せる蛍が堪らなく愛おしい。
気付けば夢中になって、二つの果実を堪能していた。