第26章 鬼を狩るもの✔
──ザシュッ!
旋毛風に乗った妖怪、鎌鼬(かまいたち)。
それを彷彿とさせるような突風が回転し、無数の触手を切り裂く。
しかし切り裂いたところから、すぐに修復し始める。
荒々しく舌を打つと、実弥は忌々しそうに目の前の巨大な触手の群を見上げた。
「埒が明かねェ…!」
斬っても斬っても、すぐまた生えてくる。
限りのない鬼の細胞は、森のように巨大だ。
「人間を喰らってはいないのに、この驚異の再生力…うーん。やっぱり、あの子は普通の鬼じゃなかったみたいだなあ」
実弥とは距離を置いた場所で、同じく触手の森を見上げていた童磨がぱちんと扇を閉じる。
「いや、"あの子達"か」
初めて見た時から、微かに感じていた違和感。
蛍もまた目を止めておくべき異質な鬼だが、テンジは更に異様だった。
何せ人間の匂いが全くしないのだ。
多かれ少なかれ、鬼は人間を喰らわなければ理性を失ってしまう。
蛍も例外ではなく、その為に杏寿郎から血や体液を摂取していた。
しかしテンジには、その気配が全くなかった。
血液一滴さえも取り込むことなく、血鬼術を取得し、柱である鬼狩りや上弦の鬼をも飲み込む力を持つ。
(生まれ落ちる形から、異端だった所為か?)
そしてそんな膨大な力を有する小さな体には、幾つもの気配が感じられた。
少年一人の命ではない。
無数の小鬼の命が集まり、作り上げた人形だ。
「さながら"餓鬼(がき)"と言ったところかな…」
人間が考え出した、地獄に住まう小鬼の一種。
常に飢えと渇きに苛まれる餓鬼は、一生満たされずに苦しみ続ける。
テンジもまた人の血肉を受け付けないが為に、あんな歪な鬼としてこの世に存在してしまったのだろう。
子供一人一人を鬼に変えたのは、恐らく無惨の手によるもの。
ただしそれらが寄り集まり一つの人形と化したのは、彼ら自身の意思だ。
(でなければ、こんな特異な情報。聞かされていないはずがない)
人間を喰らうことなく強力な力を持てる術があるのなら、無惨が研究に使わないはずがないのだ。
これは親の下を離れ、子が勝手に成長し遂げた姿。
故に異端中の異端。