第24章 びゐどろの獣✔
鬼に成る前には必死に浮世に抗い生きようとし、鬼と成ってからも尚藻掻いて藻掻いて生きている。
失くしてしまった人間であった心を、離すまいとするように。
そんな蛍を〝鬼だから〟という言葉だけで踏み付けてはいけないような気がした。
「俺は蛍を生涯の伴侶としたい。鬼としてでも望んだが、今は人として共に生きる道を望んでいる。その為に鬼舞辻無惨をこの手で倒し、蛍を人へと戻させる。それが今生きる俺の目標だ」
「…随分と滅茶苦茶な目標だなァ」
どれ一つ取っても、生半可では成し遂げられないものだ。
だが同じく無惨を滅することを目指す者として、否定する気はない。
「だが鬼舞辻は俺の手で倒すぜェ」
「それでも構わん。ただしとどめは刺さず、頭くらいは残しておいてくれ。蛍を人へと戻す方法を訊かなければならないからな」
口元に僅かに笑みを浮かべてはいるが、目は笑っていない。
貫くような双眸で生首を残せと告げる杏寿郎からは、殺気が皮膚の上で微かに滲むかのようだ。
実弥には向けていない、体の内側で燻らせている黒々しい殺気が。
「ハッ、上等だァ。本当に鬼を人に戻す方法があるのか見物だしなァ。頭以外は陽に炙らず残しといてやるよォ」
悪鬼に対しては、秒で頸に刃を叩き付け斬首する。
杏寿郎のその潔さは実弥も気に入っていた。
口角をつり上げ、幼子も逃げ出すような顔で笑う。