第24章 びゐどろの獣✔
二十歳という若さで父と弟を背負い、煉獄家そのものも支えている。
その決意に至ったのも、母を亡くした十の頃。
生半可な思いでは成し遂げられないことだ。
「すごいよ。本当に。杏寿郎は、えらい」
「う…む。そう率直に褒められると、聊か恥ずかしいのだが…」
「じゃあもっと褒める」
「よもや」
蛍の腕の中で、照れ臭そうに身動ぐ。
その頭を、溢れる想いと共に抱き込んだまま。
「でも、だから心配になるの。傍にいたいって思う。私にも支えさせて欲しいって。…だから、今度は一緒に頑張らせて」
「それは、どういう…」
「言ったでしょ。頼られる嬉しさ、私も知りたいなって。杏寿郎は一人じゃないんだから」
柔らかな頭部の髪にもふりと顔を埋めて、口付けをひとつ。
「私がいる」
顔を離して強く笑う蛍に、腕の隙間から見上げていた杏寿郎が更にぽかんと見つめる。
「……」
「…えっと」
沈黙が肌に痛い。
何を偉そうに、と今更ながら自分の発言に若干の後悔を覚えながら、羞恥を吹き飛ばすようにえへんと咳払いを一つ。
まじまじと見てくる杏寿郎の視線から逃れるように、焔色の髪を掻き撫でた。
「ほ…蛍?」
「だから今日は、全面的に杏寿郎に頼ってもらう日にしますっ」
「…っふ…なん、だ。それは」
揉みくちゃにされながらも、堪らずふくりと杏寿郎の顔から滲み溢れ出る。
嬉しそうなその声を耳に、ほっと蛍も頬を緩めた。
「そのまんまの意味。今日はなんだって杏寿郎の言うこと聞くから、なんだって言っていいよ」
「なん……真かそれは」
「え。うん」
ふくふくと、零れ落ちる互いの含み笑い。
それを止めたのは、唐突に声色を変えた杏寿郎だった。
蛍のなんでもするという言葉を聞いた途端、目の色が変わる。
「いいんだな、何を言っても」
「ぅ…うん」
あまりのその真剣さに、思わず蛍の方が尻込みしてしまう。
杏寿郎の甘えならなんだって受け止める気でいたが、ありありと意思の強さを伝えてくる双眸には早まったかなと一瞬後悔した。
小さな蝋燭のようだった瞳の灯火は、強い炎を宿している。