第12章 温泉旅行へ*1日目昼編*R15
足に当たる石と水の感覚だけ感じながら、少しぼうっとしていると。ふと、政宗の事が思い出された。まさか、真剣に想っていてくれたなんて。
私は……
足の下で、石が動いた。踏んだ場所が悪かったのか、桜の足をすくう。
「わっ!?」
ぼちゃん、と勢いよく尻餅をついてしまった。浅いとはいえ、川の中。
「あーあ…」
「大丈夫か」
慌てて駆け寄ってくれた光秀が、履物が濡れるのも構わずに桜の元へやってくる。
「平気…濡れちゃったけど」
「本当にお前は期待を裏切らないな」
「うぅ」
言い返したいけど、光秀の言う通りだ。自分の鈍くささに嫌気が指しながら、立ち上がろうとする。そんな桜の、尻餅をついた時に咄嗟に後ろについた手を、光秀が抑える。桜に覆いかぶさるようにした光秀の瞳が、獲物を捕らえる獣のように鋭く光る。
「何を、考えていた?」
「…え?」
「ぼうっとしていただろう。…他の男の事でも、考えていたか…?」
ずばり言い当てられて、ぎくりとする。
「お前は本当に、よく顔に出るな…」
「あ…」
「これは、罰だ…」
桜の目をじっと見つめたまま、光秀がゆっくりと顔を近づけてくる。目を、逸らせない。逃げたいのに、逃げられない。蛇に睨まれたように固まったままの桜の唇を、ゆっくりと味わうように塞ぐ。