第11章 温泉旅行へ*1日目午前編*
「綺麗な景色…」
そういえば、信長様が言っていたっけ。
外に面した引き戸を開けてみると、砂利が敷き詰められた小さな庭が広がっている。広くはないけれど、ツツジなどが綺麗に切りそろえられた庭は、とても風流だ。
「まあまあだな」
茶と菓子が載った盆を置いて、政宗が桜の隣まで来て、腰を下ろす。
「わ…これ、可愛い」
政宗に倣って腰を下ろした桜が目にしたのは、用意してもらった生菓子。よくみれば、それは小さなウサギをかたどっていて、つぶらな瞳でこちらを見ている。
こんなに可愛いの、もったいなくて食べられない。
「そう言うお前の方が可愛いけどな」
菓子一つのことでそこまではしゃいで、あどけない顔をする桜の事が、たまらなく愛しいと思う。
なのに
「もう…そういうことは好きな子に言いなよ」
照れて顔を染めているくせに、桜は政宗の言うことが挨拶程度のお世辞だとしか思っていない。自分以外の人にも同じように言うのだろうと、政宗の言葉一つに嬉しくなって舞い上がる自分の馬鹿さが嫌だった。