第33章 キューピッドは語る Side:You <豊臣秀吉>
「ふう…」
自分で淹れたお茶を一口すすった。喉から体内へ入っていく温かさが、少なからず緊張していた体を解してくれる。
我に返った後、黙って帰って行ってしまった家康に少しだけ腹を立てていたけど、その熱が冷めてしまえば、後に残るのは食事会での秀吉さんとの会話の思い出ばかり。
「ふふ・・・」
自然と緩む口元を咄嗟に抑えようかと思うけど、私一人だし、別にいいよね。
緊張で頭が真っ白になっちゃって、正直どうやって食事の席に着いたのか覚えてない。家康に助け舟を出してもらったような気はするんだけど。
食事を口に運ぶ事で間を持たせていたら、何とかおしゃべりするくらいの心の余裕が戻って来たけど、次の悩みは何を話すか。
秀吉さんは話も上手だし、きっと私が何を振っても楽しく広げてくれたのかもしれない。
だけど、駄目。
どうせなら秀吉さんが喜んでくれる話がしたいとか、私の事を見直してくれるような話がしたいとか…打算的な事が頭を巡って、結局目の前のご飯の事ばっかり。家康が言ってた通り、食い意地張ってるって思われても仕方ないかも。
もし相手が家康なら、話題なんて悩まないから不思議だよね。たとえ「食い意地張ってるね」って言われても、痛くも痒くもない。喧嘩には、なるかもしれないけど。
「さとみ」
秀吉さんが私の名前を呼んでくれる。それだけで、どうしてこんなに胸が張り裂けそうになるんだろう。
秀吉さんはいつも笑みを絶やさないし、驚くほどの気配りの良さと愛想の良さが人を惹きつけるから、女性たちに囲まれている光景を見る事も一度や二度じゃない。
私なんてごく普通の見た目だし、おっちょこちょいだし。お城でお世話になっていて、会う機会が多いってだけ。きっと私が町娘の一人なら、秀吉さんに近づけてもいないだろうな。
「・・・よし」
うじうじしてたって仕方ないよね。家康に諦めないって宣言しちゃったし、これから少しでも秀吉さんとの距離を縮められるように、一人でも考えなくっちゃ。
とりあえず・・・直接告白するのなんて絶対無理だって自信がある。だって普通の話ですら目を見て出来ないんだから。
となるとやっぱり…文かな。恋文だったら何とかなるかもしれない、書いてみよう。渡す方法はひとまず置いておいて、内容だけでも。
