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【イケメン戦国】紫陽花物語

第31章 キューピッドは語る Side:M <豊臣秀吉>





気乗りしない様子の家康を連れて、俺は城へと入った。そのまま秀吉の姿を探して歩き回る。軍議の準備をしているというのなら、よく使っている部屋がこの辺りにあったはずだが。

おっと、いたな。



「わっ」



立ち止まった俺の背中に家康がぶつかって、鼻を擦りながら何か言おうとするのを制した。その手でそのまま先を指差して、身を乗り出した家康と共に部屋を覗き込む。

風を入れるためか、襖を開け放した部屋に一人、秀吉の姿がある。こちらに背を向ける様子を見るに、どうやら書類に目を通しているようだ。

見る分には都合がいいが、集中しているのか、身動き一つしない。ただこうしてひっそり覗いているというのも、意外と骨が折れるものだな。

…ああ、いい肘置きがある。



「ちょっ…重いんですけど」

「少し疲れたからな。貸してくれ」

「何言って…」

「しっ、見ろ」



書類を読み終わったらしい秀吉が、大きく息を吐いた。家康もそれを覗きながら、無言で背中に乗る俺の腕をしっかりと振りほどく。なかなか良い肘置きだったというのに、残念だ。



「特に変わった様子には見えませんけど…」

「まだまだだな、家康。よく見てみろ、肩がいつもより下がっているだろう」

「はあ…?」



訝し気な相槌が返って来たところで、秀吉が書類を音を立てて閉じた。そのまま何をするでもなく、座って中空を見ている。



「秀吉さんが普段どんな様子かなんて知りませんけど、確かに少し元気がないみたいですね」

「あいつはな、家康。普段は弱みを見せないだけで、案外分かりやすい。見てみろ、あの横顔を。くくくっ…」

「楽しそうですね」



ああ、すごく楽しい。

普段は信長様の右腕としてその実力をいかんなく発揮する剛健が、小娘一人に振り回されている。恋に一喜一憂するか弱き乙女のような秀吉が、面白くないわけがない。

まあだが…様子を観察して分かった。あの男が本調子でなければ、俺も張り合いがないというもの。少しだけ本気で、手を貸してやるとしようか。

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