第27章 それゆけ、謙信様!*愛惜編*
動揺を隠しきれない桜に、落ち着いて聞いて、と続ける。
「正直、もう安土に留まるのも限界なんだ。俺たちの事もばれてしまっているし、すぐにでも春日山に帰ろうという話になってる」
「…うん」
「君がもし、謙信様に話をしたいなら、最後のチャンスになるかもしれない。体もまだ本調子じゃないだろうし、強制するつもりで来たんじゃないから…」
「行く。連れて行って、佐助君」
「桜さん…」
佐助が言葉を言い終わらないうちに、桜は心を決めていた。正直に言えば、あれだけ拒絶の言葉を聞いたあとでもう一度自分から会いに行くのは、怖い。
しかし桜は、自分の想いを何も謙信に伝えてこなかった。伝えた所で実らない事は分かっている。無下に拒絶されたとしても、黙っていて良かったと思うことはこの先無いだろう。
「桜さん、君は本当に…謙信様が好きなんだな」
「…うん」
静かな問いに、しっかりと頷いた。想いを再確認した桜の心は今、驚くほど落ち着いている。
決意を固めて、出かける準備をし始めた桜を目で追いながら、佐助はその手首に渡した腕輪がしっかりとはめられていることに気がついた。
ああ、つけてくれてるんだな。
嬉しく思うと同時に、腕輪を渡した時の思いがよみがえる。
桜さん、俺は。
「準備、出来たよ」
「行こう」
桜に手を貸し、一緒に天井裏に潜り込んだ。少しずつ休みながら、着実に城の出口へ向かって進んでいく。天井裏から抜け出すと、佐助は桜を背負う。
「出来るだけゆっくり行くけど、きつかったら言って」
「うん、大丈夫」
桜の体に負担をかけないよう慎重に歩みを進めていく。背中に感じる温かさに、ふいにこみ上げる感情。
謙信様に惹かれていく君を、見ている事しかできなかったけど。
腕輪に誓った思いは、決して偽りではない。謙信に桜を引き合わせた事を後悔していないと言えば、それは嘘になるかもしれないけれど。
俺が邪魔をしたとしても、きっと二人は出会ってた。
桜の横を望む事が叶わないのなら、今はただその笑顔と幸せを守ろう。新たな誓いを、腕輪に託して。