第23章 温泉旅行へ*信長エンド*
「おい、早くしろ!」
「秀吉、そんなに慌てるな」
「お前はもう少し慌てるべきだろ、光秀」
先頭を急ぐ秀吉の少し後ろを、光秀と政宗。その後ろには家康と三成が、それぞれが松明を手に馬に乗って、信長達を探していた。
「何も全員来ること、無かった気もしますけど」
「お前だけ戻るか?」
にや、と振り返る政宗にむっとして、家康は口を噤んだ。
「そろそろお姿が見えてもいいはずなのですが」
三成の呟きとほぼ同時に、先頭の秀吉が馬の速度を緩めた。前方に人影を認めたためだ。影が一つなのに警戒するが、それは確かに探していた人物。
「信長様!」
馬を降りて手綱を引きながら、秀吉が信長に駆け寄る。桜はと見れば、なんと信長の背中に背負われて、寝息を立てている。
「申し訳ありません、遅くなりました」
「良い。馬を寄越せ」
「はっ」
自分の乗って来た馬を信長の前に引いて、秀吉は桜を降ろすのを手伝おうと手を伸ばした。
「手はいらん。…触るな」
秀吉だけでなく、後ろから見守っていた武将達までが呆気にとられる。当の信長は気にすることもなく、桜を器用に前に抱きなおすと、ひらりと馬へ乗った。
その振動で、眠っていた桜が身じろぎする。
「ん…」
「桜、まだ寝ていろ」
「はい…」
幸せそうに微笑み、信長の胸に寄りかかった桜は、再び眠りについた。その顔にかかる髪を耳にかけてやる信長の目は、驚くほど優しい。
「揃いも揃って、何を呆けている。さっさと戻るぞ」
「はっ」
先に駆け出した信長の後ろ。政宗が、隣の家康にこそこそと話しかけた。
「…見たか?」
「気持ち悪いほど、デレデレしてましたね」
「おい…俺はそこまで言ってないからな」
そのまた後ろ。三成の馬の後ろに乗った秀吉が、安堵と疲労の混じった顔を浮かべる。光秀の馬が横に並んだ。
「一件落着だな、秀吉」
「お前のせいで、城にいる時より疲れた」
「それは大変です、私が秀吉様のためにお茶をお淹れ致しますね」
「…ありがとう、三成。その気持ちだけで十分だ」
吉次達の松明が、皆を出迎える。
星降る夜の散歩も、旅も。
これにて終幕。
さあ、帰ろう。
終