第21章 温泉旅行へ*三成エンド*
「話が違うじゃないか!」
叫びともとれる大きな声。桜は、俯かせていた頭をゆっくりと上げた。
かび臭い小さな丸太小屋。部屋の隅に厚く積もる埃が、長らく使っていないことを示している。
「俺は約束通り動いたんだぞ!」
桜の座る壁際から、ちょうど対角線上の壁際にいる男が、ぎゃあぎゃあと喚いて相手に何かを訴えている。縛られている身体を身じろぎすると、床が音を立てて、その男が振り返った。
「吉次さん…」
宿から離れているからか、口は塞がれていない。桜は、眠っていた所を吉次に手引きされた男達によって攫われ、この小屋へと連れてこられた。かなり深く眠っていたから、深夜遅くだろうと思われる。
小屋の中にはろうそくの小さな灯りしかなく、ゆらゆらと影がゆらめく。
名を呼ばれた吉次は、苦虫を噛み潰したような顔をして、また相手に向き直った。
「あの子を自由にしていいと言うから、俺はあんたらに協力してやったんだ!」
吉次が喚き散らしている相手に、桜は見覚えがない。恰好こそ汚いけれど、眼光は鋭く光っている。さっきまで何人か小屋の中にいたのだが、今は外に出ているようだ。
男は、吉次を鼻で笑う。
「予定が変わった。ただの供かと思えば、武将共にやけに可愛がられてるみてえだからな。こいつを殺せば、動揺した奴らを一網打尽に出来る」
下卑た笑い声を上げながら、男は大股で桜に歩み寄ってきた。腰に下げている刀が揺れるのが見えて、ずりずりと後ずさる。
少しでも逃げようと反らす顔を掴まれて、覗き込まれた。
「綺麗な顔してるのが惜しいけどなァ…」
屈したくなくて、なけなしの勇気で男を睨みつける。フンと鼻を鳴らして、男は桜から手を離した。
「殺す、だと。その子を殺すつもりなら、俺ももうあんたらに協力する義理はない」
「あ?なんだと」
ぶるぶると怒りに震えた吉次が、小屋の外へと出て行こうとする。
「俺は巻き添えを食らうのは御免だ。宿へ戻るから、勝手にやってくれ」
「俺たちの事を話すんじゃねえだろうな」
その言葉を無視して出て行こうとする吉次。その背後に、外から違う男が忍び寄る。
「吉次さん、危ない…ッ!」