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【イケメン戦国】紫陽花物語

第18章 温泉旅行へ*政宗エンド*





「…何が、あったの?」



自分のせいだと言ったまま、政宗が黙ってしまったものだから、桜が不安そうな声を上げる。

今桜は、政宗の膝の上に横向きに抱えられている。その顔を、政宗は眉間に皺を寄せて見返した。



「吉次の野郎が、気絶させたお前を崖に放ったんだ」

「え…」



政宗から発せられた言葉があまりに衝撃的で、絶句する。



吉次に放り出され、気を失ったままの桜が落ちていく。その光景が、ゆっくりとした映像として流れ込んできた時、政宗が感じたのは、恐怖にも似た感情だった。


このまま、桜が崖下まで落ちたら。
もう二度と、あの笑顔が見られなくなったら。


怖い。


戦に出る時にも襲われたことなどない、この感情。神や仏にすがるような自分ではないけれど。今だけは。


頼む。


届け。


この手が届くなら、構わない。これからも笑っていてくれるのなら、それでいい。たとえ、桜が俺のものじゃなくても。

無我夢中で伸ばした手は桜を掴み、落ちていくその体をかばうことが出来た。何とか崖の中腹に引っかかって止まった時には、政宗の身体は少しだけ震えていた。


「俺がもっと慎重に動いてれば、お前が危険な目に合わずに済んだ」



すまん、と謝る政宗に、桜はいたたまれなくなる。何があったのか全くと言っていいほど分からない。けれど少なくとも、今桜がこうして無事でいるのは、政宗のお陰だろう。



「政宗のせいじゃないよ」



蘇ってきた恐怖に、政宗の桜を抱く手には、痛いほどの力がこもっていた。苦しいだろうに、桜は優しく政宗の背中に手を添えて、そう一言呟いた。

桜の柔らかな声が、政宗の心を少し軽くする。

政宗と共に落下した桜は、まだ気絶したままだった。それは落下の衝撃のせいではないと分かっていたのに、生気のない顔をした桜の様子に耐えられず、名前を何度も呼んだ。それに答えるように目を開けてくれた時の気持ちは、筆舌にしがたい。
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