第16章 温泉旅行へ*2日目昼編*
もう少し書庫にいるという三成を残し、桜は一人離れた。廊下の角を曲がって、人がいることに驚く。
「うわっ、びっくりした」
「…驚きすぎ」
飽きれたように桜を見た家康は、さっさと先に立って歩き出す。
「ここの町で買いたいものがあるから、付き合って」
「あ…待って!」
慌てて追いかけて、二人で馬に乗った。
宿のある山から少し下ると、安土ほどではないにせよ、賑わいを見せる町に出た。適当に馬を止め、通りをぶらぶらと歩く。
「家康は、何が欲しいの?」
「薬草。こっちの方でしか採れない物もあるから」
少し前を歩く家康に桜が問うと、そんな返事が返ってきた。通りすぎる店に向けられていた目が、桜を見る。
「桜は?」
「欲しいもの?んー…あ、じゃあ仲の良い女中さんとかにお土産、買おうかな」
「ふうん」
ふうん、って…。
自分から聞いたにも関わらず、家康は桜に興味のなさそうな返事をして、ふいと視線を外した。
肩透かしを食らったような気分の桜。何気なく視線を向けた先…通りの逆側に、家康の目当ての店があるのを見つけた。
「あ、家康あそこにあるよ、お店!」
「え…ちょっと、桜!」
ばっと駆けだそうとした桜の腕を、家康が掴んで引き戻す。すんでのところで立ち止まった桜の目の前を、数人の子供たちが笑い声を上げながら駆けていった。