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第21章 親と子


結局は、私も彼も、口付けを交わすほどの勇気は持てなかった。
けれど彼は、震えきった手で私の体をしっかりと抱きしめてくれたのだ。

怖くはなかった。
それ以上に、罪悪感しか残っていなかった。

彼にだって怖いものはあった…怖いものくらい、あった。
気付けなかった…甘えていた。

「…蝶、お主…中也の家には戻らんのか?」

『……今日、だけ…泊めて、下さい』

「………何があった?話せるか?」

『…』

仕事の報告は中也さんが自分でしてくると口にして、一人で首領室へと歩いていった。
私が目にした彼の背中はどこか覇気が感じられなくて。

彼はあのビルの中で、私と約束を交わした。
今回のことは、死んでも他言しないこと…私が怖がることはしないこと。

私が望まない限りは、暫く距離を置くということ。

「……まあよい…とりあえず、衣服を貸そう。浴衣でもい…相変わらずじゃのう、そういう所は」

中也さんの外套を握りしめたまま反応を示さないでいると、何かを察したのか紅葉さんはそれ以上何も言わなかった。

「執務室の鍵の開閉は分かっておるな?童は…ここにいる方がいいか?…それとも、一人になりたいか?」

『………一人、で大丈夫…です』

「蝶の言う大丈夫は信用ならんのじゃが…それならば失礼するぞ?何かあればいつでも…どんな些細なことでも呼んでくれて構わぬ………あまり自分を責めるでないぞ。その方が“中也も悲しまん”」

『!…はい…』

頭を撫でられてから、紅葉さんは自宅へ帰るべく、執務室を出て行った。

……何してるんだろ、私。
どれだけ至れり尽くせりで、甘やかされれば気が済むんだろう。

何回悲しませれば…どれだけ我慢させれば…………何度涙を流させれば、気が済むんだろう。

また、泣かせた……また私、中也さんのこと泣かせちゃった。

あんな泣き方したの、四年ぶり…あんな事言わせたのも、四年ぶり。

他の世界に飛んでもいい、逃げてしまったっていい……私が笑って過ごせるのなら、自分に縛り付けはしないから。

言わせてしまった、“また”だ、こんなこと。
もう二度とさせたくないって、あれだけ私は後悔したのに。
あれだけ、もうさせないって、心に決めたはずだったのに。

『…』

けどやっぱり、まだ怖い。
身体はどうも覚えてしまっているようで。

……ああ、でもやっぱり、どうにかしなくちゃ。
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