第7章 第六章 夢を見るのは、生きている者だけらしい
「おぉ………!」
彼岸花は感嘆の声をもらす。
二つ同時に切り落とした張本人は、涼しい顔でまた刀を構える。
(た、確かに強い)
彼岸花は愛染の言葉を思い出しながら亜種が叫ぶのを見ていた。
前足二つを失った亜種が堪らず崩れ落ちる。
その素人でもわかる一瞬を、背後の奴が逃す筈もなかった。
亜種の背後で僅かに動く影。
一瞬の沈黙。それを越して、ついに亜種が前のめりに倒れた。
彼岸花と髭切は倒れてくる亜種を避けて、更に距離を取る。
「……ふん、こんなものか」
岩融が得意気に言う。
「やったんですね!岩融!」
今剣がまるで自分の事のように喜んだ。
岩融に飛び付く彼は、彼岸花が見たこともない笑顔だ。
「おう。グロい」
その光景から顔を背けて、彼岸花は亜種に目を向けた。今のはその感想である。
亜種の背中は大きく肉が抉れて白い骨が見えている。
(これで、死んだか………)
案外あっさりしたものだ。まぁ、普通この状態で生きている生物はいないので普通か。
「……………で、どうやって帰るの?」
蛍丸の呟きで勝利モードに入っていた全員が固まった。
「………………………」
誰もが互いに目を合わせて、無言の中不安を言い合う。
奇妙な空気が漂う。と、その時彼岸花に閃きが落ちた。
「他本丸の刀剣達に助けを求めればいいんでない?出陣にしろこいつを倒しに来るにしろ、誰かしら来ると思うし。」
「あぁ、いいね、それ。じゃあ、そうしようか」
「……………それで、どれくらい待てば来るんだ?」
骨喰の問いに答えられるものはこの中には居やしない。
彼岸花は既に座ってのんびりしだした髭切を見ながら、自分も座ることにした。
「…………………!?」
だが、その瞬間凄まじく嫌な予感がした。
肌が一気に粟立って、背筋が冷たくなる。
考えられる元凶として死んだ亜種を見た。…………………正確には、死んだはずの亜種を。
「!!今剣くん!」
彼岸花の叫びに、今剣とじゃれていた岩融が本人より先に反応する。
事態は一瞬で悪い方に転んだ。
ゆっくりと目の前で時間が流れていく。
岩融が、今剣を突き飛ばした所までは見ていた。だが、その直後岩融が亜種の尾に殴られた所は見ていない。
何故なら、彼岸花は一心不乱に走っていたからだ。
殴られた衝撃で後ろに下がる岩融。その先は、崖だ。
