第14章 God bless you【ドリフターズ】
それから一昼夜、彼と歩き続けた。
陽が昇り始めた頃には、鼻を突く潮の香りが段々と強くなり、海が近いのだと分かる。
突然、立ち止まった彼が南に向かって指を差した。
「あの丘を越えれば巨大な鉄船が見える筈だ。
其処まで辿り着けば大丈夫だろう。
俺が近付けるのは此処までだ。」
そう言って踵を返す彼の背中に、私は慌てて声を掛ける。
「あのっ……ありがとうございました。
是非、何か御礼を……」
御礼と言った所で、私には渡せる物も出来る事も無い。
それでも彼が居なければ私は此処迄来られなかった。
その感謝の気持ちを少しだけでも……。
「礼など不要だ。」
振り向いた彼は相変わらずの無表情だ。
「でも……」
尚も食い下がろうとした私に向けられた彼の言葉は予想外な物だった。
「礼を言うべきなのは、俺の方であろう。」
「………え?」
「貴様の夫に『土方歳三』という男が
礼を言っていたと伝えてくれ。」
良く意味が分からなかったけれど、それが彼の望む事ならば…と、私は大きく頷く。
「『土方歳三』さん…ですね?
分かりました。
必ず伝えます。」
「ああ……頼んだぞ。」
そして彼は僅かに顔を綻ばせて、そのまま去って行った。