第2章 徒桜【るろうに剣心】
「無理をさせたな。
………すまない。」
前髪をかき上げて額をそっと撫でてやると、まだ呼吸の整わない翠は目を細めて僅かに微笑んだ。
その儚げな笑顔は初めて出会った日に見たものと何一つ変わっていない。
……変わってしまったのは俺の方か?
「身体は辛くないか?
痛みは?」
そう問い掛けながら抱き起こそうとした俺の首に翠の両腕が回され、唇に柔らかい唇が押し付けられて来た。
その甘美な感触に動きが固まる。
それでも漸く取り戻した理性を持ってして、俺は再度翠の身体を布団に押し戻す。
「………止めろ。」
「……蒼紫様。」
「まだ足りないのか?
もっと俺に嬲られたいのか?」
「蒼紫様。」
翠の潤んだ瞳が俺の視線を捉えて離さない。
「止めろと言っている。
俺の名前を呼ぶな!
もうお前を傷付けたく無い。
………頼むから…」
俯いて拳を震わせる俺の身体を、上体を起こした翠がふわりと包み込んだ。
「傷付いてなんて……いません。
私が………蒼紫様を欲しいんです。」
「………………っ」
少し身体を離した翠が、小首を傾げて俺の顔を覗き込み
「駄目……ですか?」
掠れた声で問い掛ける。
駄目なものか。
俺の方が余程お前を欲している。
だけど………良いのか?
俺がお前を抱いて良いのか?
………これも、俺を取り込む手管なのか?
やはりまだ翠の真意が分からない。
どうしても翠への疑いを拭い切れない卑しい自分に吐き気がしそうだ。