第8章 思い出の欠片
「昴輝の話しによれば、吸血鬼の頭首が危ねぇらしい。」
「それは本当か!?」
「あぁ。」
日向の言葉を聞いた伊月の顔色も変わる。その時、昴輝が結紀に呼ばれていることに気付いた。昴輝の周囲に風が集まり始める。
それは、とても不思議な動き。結紀の元へ誘う感じであった。昴輝は、日向に伝える。
「結紀に呼ばれている。オレは、先に行く。後から来い。」
「あ、おいっ!」
昴輝は日向の言葉を聞く前に、風に包まれその場から消えた。そして、今現在となっている。
スナイパーを撤退させなければ、華鶴は解放されない。狐族にとって苦しい。その判断は、笠松がしなければならない。結紀の後ろには、矢を構えている緑間がいる。下手に動けば、射抜かれてしまう。
笠松は、結紀の瞳を見る。瞳を見れば、嘘か本当かが分かる。瞳は嘘を付けない。結紀の瞳はとても真っ直ぐだ。彼女の真っ直ぐな瞳に笠松は、はぁ…と一つ溜息を漏らす。
「宮地、悪いが…撤退する。」
木々に隠れていた宮地が出てくる。まさか、人間族の頭首がこの場にいるとは思ってもいなかった。
「…分かった。おら、撤退だ!」
宮地は笠松の考えに反論せず、待機していたスナイパーに撤退命令を出す。すると、ぞろぞろ動き始める。それを見た結紀は昴輝の方を見て静かに言った。
「…昴輝、彼を解放してあげて。」
「………分かった。」
そう言って昴輝は華鶴を解放する。そして、結紀と昴輝は、華鶴から数歩後ろに下がる。