第17章 ・傘の話と見えない戦い
「文緒。」
義兄に呼ばれた気がしたがはっきりしない。そのまま文緒は意識を手放した。
眠ってしまった義妹の小さな頭をそっと撫でてみる。相変わらず小動物のようだと若利は思った。一方で一体俺は何をしているのかと思う、仕置きなどとこじつけて側に置いて。いや本当はわかっている。完全に自分のしたいがままにしているのだ。お互い時間が合わない中、少しでも側に置いておきたいという欲望のままだ。読んでいた月バリを本棚にしまって若利はふと気がつく。
そういえば文緒は愛用している携帯型映像機器とガラケーをどうしたのか。映像機器はともかくガラケーの電池がなくなるのは困る。以前のようになかなか文緒が帰ってこない時に探し回ることになる。充電しておいてやろうと珍しく気を利かせて若利はそっと自室を出た。
結論から言うと文緒の部屋に行ったはいいが充電用のアダプターをどこにしまっているのかよくわからず若利は目的を果たせなかった。仕方あるまいとあっさり切り替える。有難いかなどうこういう娘ではない、他所は知らないが。
「愛している。」
義妹の横に潜りながら若利は呟く。本当は起きている時に言ってやりたかったが言わずにおれなかった。過保護、溺愛、極端、シスコン、色々言われているが知った事ではなかった。
次の日、若利はいつも通り起きて義妹もつられて寝床から這い出す。
「おは、ようございます、兄様。」
「俺は先に行く。」
「うん。」
寝ぼけた顔の文緒は一瞬そう返事してハッとした顔をする。
「申し訳ありません、兄様。」
「いや構わないが。」
そこまで気にせずともと若利は思いそのまま口にした。
「俺を立てようという心意気は有難いがそこまで気にせずとも。」
しかし文緒はまだ寝ぼけながらも言った。
「兄様はそう仰ってくださいますがどうしても他から見れば私は他所者です。その立場とお母様、お祖母様の手前があります。」
流石の若利もむ、と唸った。養女という立場は自分が思うより重いのかもしれない。
「お母様達も兄様もよくしてくださるので今一度気をつけないといけませんね。他所者は油断出来ません。」
「そうか。」
若利は呟く。ふと脳裏に今は牛島家にいないとある人物が浮かんでハッとした。
「に、兄様っ。」