第17章 ・傘の話と見えない戦い
雨だった。
「どうしよう。」
白鳥沢学園高校の玄関口で牛島文緒がしょぼんとしていた。一緒にいた文芸部の友がどうしたのかと聞いてくる。
「傘がなくなってる。」
文緒が答えると友は目を見開く。
「誰かが間違えて持ってったのかな。」
あるいは牛島の奥方のファンが持っていったとかなどと友が言うので文緒はまさかと呟く。
「そんな人がいるのかなって事とそうだとしてわざわざ傘なんて選ぶかな。」
しかし友人はまだ言うかこのロリータはと言う。
「何て事。私はロリータじゃないってば。」
友人は笑ってはいはいと流した。
いずれにせよ朝確実にさしてきた傘が見当たらないのは現実で文緒はまず友人に付き合ってもらい購買へと向かった。しかしこんな日でも傘を持っていない奴は意外に多かったのか購買のビニール傘は売り切れていた。
「ごめんね。」
友人に傘に入れてもらいながら文緒は呟いた。途中でコンビニがあればそこで傘を買おうという算段だ。それが駄目なら諦めるしかない。気のいい友人は気にしないでと言い、しょぼんとしている天然少女に付き合う。雨は嫌がらせのように強くなってきた。
結局途中でコンビニがあったもののそこでも傘は売り切れだった。もう状況は決定である。途中まで友人と一緒に行く。歩く道すがら友人がふと家の人に迎えに来て貰えばいいのではと言った。
「普通ならそうした方が早いんだろうけど」
文緒は言った。
「家にいるのがお母様とお祖母様だけだからなんだか気が引けちゃって。」
友人はそうかと言い、そこについてはそれ以上コメントしなかった。代わりに奥方が風邪引いたら旦那がカンカンだろうなと言う。
「あなたの事は怒らないと思うよ、というか奥方とか旦那とかやめて。それより傘本当にどこ行ったんだろ。」
もし誰かが意地悪でどっかやったんならと友人が言った。そいつは牛島先輩にギタギタにされるね。
「私はそうじゃない事を祈りたいな。」
文緒がそう言っているうちにそろそろ友人と別れねばならなくなってきた。