第31章 ・ウツイの娘 終わり
「反対を押し切って牛島の家を飛び出して父と一緒になった人でした。だから今でも私を疎む方は多いです、あれは宇津井の余所者だと。」
「かなり遠い血筋なのは確かだが大人の中には言う事がどうにもわからない者がいるな。」
「そういうものなのでしょう。だからこの家に来る事になった時は驚きました。」
「そうか。」
しばし黙る兄妹、文緒は力を抜いて義兄にもたれかかりその義兄はやはり義妹をムギューとしたまま離さない。
「兄様」
やがてふと気づいた文緒は口を開いた。
「どうかそんなお顔をなさらないでください。」
「そんなにひどいか。」
「険しい感じがします。」
元から険しく見える若利の顔だがこの辺りは文緒が慣れてしまっているせいなのか天然のせいなのか。
「困っている。」
「何にでしょう。」
「俺は出来ればお前をずっと側に置きたい。母さん達も恐らくそのつもりでお前を引き取り俺の側にいるように言いつけたんだろう、前の名を口にするなとまで言って。だがそれによってお前が必要以上に苦しむのは不本意だ。」
文緒はキョトンとした。まさか最近の悩みを聞かれてもなしと豪語するようなこの義兄からそんな言葉を聞くとは思わない。
「兄様らしくないです。」
今度は若利がキョトンとする番だった。もっとも親しくないものから見たら表情はほぼ変わらないが。そんな義兄に文緒は微笑んで続ける。
「そうならないように兄様がいてくださるのでしょう。」
小さな片手を若利の大きな手の上に乗せて文緒は重ねて言った。
「何度でも申し上げます、私はずっと兄様の側におります。どうか心配なさらないでください。」
「文緒。」
「私は宇津井の娘でもありますが今は牛島文緒です。」
無意識に熱く語る義妹を若利の両腕が抱きしめ直してくる。
「どうしてもの時が来るまで若利兄様の文緒でいさせてください。そして私だけの兄様でいてくだ」
文緒は最後まで言わせてもらえなかった。強引に向きを変えられ気がつけば唇を重ねられる。んんと唸るが例によって離してはもらえない。やがて若利は文緒の首筋に唇を押し当てる。それだけでは足りなかったのか喉の辺りにまでやられた。流石に驚き文緒は目を見開く。