第25章 ・海へ行く話 終わり
文緒が声を上げる。煽られたストールを押さえようとするがもう遅い、あっという間にストールは宙に舞った。文緒は反射的にそれを追うが
「馬鹿っ、あぶねーっ。」
瀬見が叫ぶ。海の方へ飛んでいくストール、何も考えずに追う文緒は防波堤から飛びだす寸前だ。一瞬固まった一同は息を飲み、瀬見ですらうまく動けなかった中事は劇的に進んだ。
ダンッと地を蹴る音、ぶわっと別の風が起こる音が響いた。文緒からは逆光で何が起きているのか半分くらいしかわからない。
「兄様っ。」
気がつけば文緒は若利の片腕に抱きかかえられていた。
「愚か者。」
呟く若利の片手にはストールが握られていた。
「申し訳ありません。」
腕の中の文緒はしょぼんとして俯き、一部始終を見ていたバレー部の面々はホッと胸をなでおろす。
「ちょ、今の見たっ誰か撮ったっ。」
「阿呆か天童、そんなどころじゃなかったっつーのっ。」
「くっそー、超劇的な瞬間だったのにさ。」
「それしても良かった、間一髪だったな。」
「ぐ、文緒も守って肩掛けも回収して牛島さん流石っす。」
「お前は何でもかんでも張り合って何がしたいんだよ。」
「工、若利、天童、あの嫁、うちの関係者は何かの方向音痴ばっかりか。」
「ちょっと隼人君、俺を込みにしないでくんない。」
「山形さん、ドンマイ。」
「他人事みたいに抜かしてんじゃねーよ、川西。」
そんな仲間のざわざわにはお構いなく若利は義妹を離さないまま話していた。
「自分の安全と肩掛けとどちらが大事だ。」
「おっしゃることはわかります、でもどうかお許しください。お母様がくださったので失くしたくなかったんです。」
「心情は理解する。だが無茶をするな。」
「はい。」
「まだまだ側にいてもらわないと困る。」
「兄様。」
文緒が呟き若利は回収したストールを義妹にかけてやる。あまりうまくなかったので文緒がこそっと直しているのはご愛嬌だ。