第21章 それぞれが負う傷
決して自分の家ではないが、いくらなんでも人の家に何の断りもなく上がり込んできた河上に対して天音は更に不信感を抱いた。そんな感情を抱いている相手が銀時では無く、自分に用があると知れば戸惑いが隠せなかった。自然と足は後方に下がっていたが、河上はそれを追うことはなくその場で天音の様子をレンズ越しに見ていた。
『あなたに用が私に用がある程そんな関係築いて無いと思うんですが…。』
河上「言い方が悪かった。主に用があるのは拙者では無く晋助でござる。」
『いや、それは高杉さんも同じなんですが…。』
天音の表情はどんどん曇り、なんとも言えない感情に襲われた。意味も分からず、その関係は恐怖に近かった。
河上「そういう訳だ。晋助が主に会いたがっている。一緒に来てはくれないか?」
『あの、私今日は大事な用があるので。高杉さんにはそう伝えてください。』
この後銀時に想いを伝えるという、天音にとっては重大な用事がある。今回を逃せばきっとズルズル引きずって、また長期間何も言えずに日々を過ごしてしまうと本人は分かっていた。だがそんな天音の返答に顔色一つ変えない河上はその場から、一歩、また一歩と天音との距離を縮めて来た。
『な、何ですか、もっもう帰ってくださいっ!!私はここで銀さんを待たないとダメなんです!!』
河上「…手荒な真似はしたく無かったのだが、仕方無いでござる。」
そう言葉を放った河上を見て天音はそこはかとない恐怖を感じ、身体は震えていた。後ずさりをするにも、とうとう壁まで追い込まれてしまい逃場がなくなってしまった。
『い、いやだ…かっ、帰ってくださ……うっ…!』
天音の言葉は河上の拳一つで遮られてしまった。腹を殴られ、そのまま気絶してしまった天音は前へ倒れ、河上はそんな天音を支え自分の肩に掲げて万事屋を後にした。
そして垂れ下がった腕、左手の手首からは銀時から貰ったブレスレットが解け、そのまま地面に落ち、ケーキとそのブレスレットだけが誰も居ない一室に残った。