第4章 マフィアでの生活
「やぁ、くるみちゃん。こんな時間に一人で歩いてたら危ないよ?」
屈託のない、明るい笑顔。
「夜の出勤はあまりお勧めしないなぁ。私個人としても、君が襲われてしまうのは実に惜しい。」
「…何が云いたいのですか…?」
「どこに行くんだい?」
「芥川さんのところです。あなたとの鍛錬のせいで、倒れたと聞きました。…何故…」
「そこまで無理をさせてまで、今彼を訓練しているのか…って?」
「…はい。」
少し涙声になるくるみ。
「彼は今、自分を見失っている。多少無茶であっても、がむしゃらに進んでこそ、成果が得られるというものだよ。それに、即戦力になってこそ初めて居場所として認識できる。私は、彼に一刻も早く、自らの必要性を感じてもらいたいのだよ」
すらすらと御託を並べる自分に、我ながら驚いた。
半分は本心だと思う。
だが、それだけだろうか。
何故、芥川くんに向けられる彼女の想いがこんなにも気になるのか。
もしかして、私は…
「そういう、ことですか。」
「そうだよ?」
違うかもしれない。
私は今、この子を騙しているのではないだろうか…?
しかし何故そう思う?
この得体の知れない感情はいったい…。
「くるみちゃん、医務室まで送ろう。」
「ありがとうございます…!」
きっと私は初めて後輩を持って混乱しているだけなのだ。
だから、鍛えたいと思うと同時に、不安をかけたくないのだろう。
これが、先輩になるということに違いない。
僅かな違和感を残し、太宰はそう結論づけた。