第26章 petrichor
ベージュのコーデュロイパンツの裾には血が滲んでた。
靴下はくるぶしの下までの短いやつだったから、ころんだ拍子にむき出しになった足首を擦りむいちゃったんだ。
「どんな転び方したんだよ…」
捲りあげて、消毒液を綿に染み込ませてポンポンやってやると、ふぐうって真っ赤な顔して我慢してる。
「ほらぁ…我慢して」
「あい~…」
そうこうしてる間に後ろに居たじいさんの一人が、隣の椅子に置いてあったスーツケースを開けてる。
「ジュン…寒いから、これ…」
「ああ…ありがとう」
上着を取り出して、渡してる。
顔の濃いじいさんは、ジュンという名前らしい。
翔がじっとそっちを見てるから、ジュンじいさんは笑った。
「今日ね、帰国したんだよ…今、南半球に住んでてね…」
「季節が逆になってること、すっかり忘れて帰国しちゃったんだよ…」
もうひとりの陽気な格好をしたじいさんも眉を下げて笑った。
「おっちょこちょいだなあ…」
地味な格好をしたじいさんも話に参加して笑ってる。
「うふふ…」
消毒が終わって、そんなに痛くなかったのか翔はご機嫌になった。
「ほら、絆創膏貼るからな?」
「はあい」
コーデュロイの血は家帰ってすぐ流せば落ちるかな…