第14章 Ⓡ◆路地裏イチャアンin神田【企画】
「いつ負傷しやがった。これはAKUMAの鉤爪跡だろ」
「…え?気付かなかっ」
「ぁア?」
「ごめんなさい」
ピキリと神田の額に青筋が浮かぶ。
瞬間、雪の頭部は秒速の勢いで降下した。
言い訳もさせて貰えない程に、彼の堪忍袋は短い時は極端に短い。
一にも二にも謝罪に限る。
でなければ消毒液のプールにでも放り込まれてしまうだろう。
「こ、これくらい掠った程度だよ。応急処置で痛み止めも打ったし止血剤も塗り込んだから、もう平気で痛いッ!?!!」
「痛がってんじゃねぇか」
そう告げる神田の左手は、ぐにりと雪の腹部を抓り上げている。
傷口が痛むと言うより、その遠慮のない抓りが痛いだけだ。
「そ、それは理不尽な暴力にです…」
「何が理不尽だ、理由ならちゃんとあんだろ」
「怪我人には優しくして下さい…」
「そんなの掠り傷なんだろ」
「ええ掠り傷です舐めときゃ治る程度の傷ですだから後生ですから命だけは」
「何AKUMAでも見るような顔してんだテメェコラ」
頭を下げて懇願する雪の姿が、なんとも気に入らない。
偶に乱暴に扱ってしまう癖は残っているが、これでも以前より遥かに雪に手を上げる回数は減った。
それでも逃げ出す癖の減らない雪には、加虐心のようなものが煽られる。
逃げ出す身は捕まえたくなる。
逸らす眼は釘付けにしたくなる。
怯える声は求めるものに変えたくなる。
「…言ったな」
長身の神田の背が屈む。
逃げ出さないように腰を掴まえたまま、膝を付いた神田の顔が腹部へと寄せられた。
「っ!?ゆ、ユウっ?」
「舐めりゃ治るんだろ」
傷口にぴりりとした感触。
べろりと赤い舌に遠慮もなく舐め上げられて、ぴくりと雪の体が跳ねた。
「いや、それは自分でって言うか…」
「自分でどうやって舐めんだこんな所」
「と、いうか言葉の綾というかそれは」
「治った」
「え。」
ぴたりと止まる。
思わず見下ろし凝視した雪の目に、唾液で僅かに濡れた自身の腹部が映る。
「えぇえッ」
先程まで蚯蚓腫れのように浮き出ていた傷跡はどこにもない。
幻覚かと疑う程、それは跡形もなく綺麗に消え去っていた。