第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
───ドォン
「あ。花火」
明かりのない岩場で、肌を寄せ合ったまま雪は色とりどりに染まる夜空を見上げた。
「あれは…教団側のビーチか」
「コムイ室長が打ち上げるって言ってたからね」
「そんなこと言ってたか」
「言ってたよ。ユウは聞いてなかったかもしれないけど」
ちゃぷりちゃぷりと、足だけ浸かった湖の水温が心地良い。
背中を程良く引き締まった筋肉に預けながら、雪は夜空に花咲く光を見つめた。
「綺麗だねー」
「………」
しみじみと呟く雪に習い、その柔い体を抱いたまま神田も夜空を見上げる。
ぱっと散りゆく光の筋が、暗い空を流れていく。
まるで人工の流れ星のようだ。
「ね、ユウ」
「……悪くはない」
「素直じゃないなぁ」
「本当のことを言っただけだ。悪くはない」
振り返り笑う雪の耳元に、唇を寄せて。
「俺にはこっちの方が綺麗に見える」
「っ…も、もう。褒めたってこれ以上は何も出ないからね…」
「見返りなんて求めてねぇよ。充分欲しいもんは貰った」
緩やかに抱いた華奢な体を実感するように、今一度五感に意識を向ける。
剥き出しの肌から伝わる体温は、暑さの所為か、思い返した行為の所為か、じんわりと熱い。
触れては撫でて、舐めては押して、弧を描いては偶に引っ掻いて。
昼間、求めるように水中で神田から与えられた刺激は、雪を蕩けさせるには充分なものだった。
「なんか、凄く、暑くなってきた…諸々で」
「暑いなら水ん中入ればいいだろ」
「………ぃぃ」
目の前にはすぐに涼める場所がある。
しかし促せど、腕の中の雪は身動ぎ一つしなかった。
大人しく神田に身を預けたまま、腹部に回された手に手を重ねる。
「もう少し、こうしていたい…かな」
陽が暮れても充分に暑い熱帯夜。
それでも触れている方が心地良く感じるのは、体温ではない別の感情が動くからだ。
照れを隠すようにぽそぽそと呟く雪に、神田は微かに口元を緩めた。
(あ…この顔)
とくんと胸がひとつ鳴る。
空を舞う大華に照らされるそれは、稀にしか見せない神田の表情の一つだ。
そしてそんな時、彼の態度が酷く優しくなることも雪は知っていた。