第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
「そんなに良いもんかね」
「んー…当たり前のようで当たり前じゃないものだから。前にクロス元帥にも云ったことあるんだけどね」
その時のことを思い出しているのか、少し照れ臭そうに南がはにかむ。
別の男の名を出してそんな顔をされれば、良い気はしない。
なんだかなぁとラビが無言で見つめる中、そんな彼の心境など露知らず。
「ありがとう、ラビ」
「へ?」
南は柔い笑顔のままラビへと向き直った。
「リーバー班長も、皆も楽しそうにしてるし。ラビのお陰だよ」
「…お陰つったって、オレは元々…此処に皆を誘うつもりはなかったっつーか…」
「でも海の提案をしてくれたのはラビでしょ。青の洞窟だけじゃなくて、こうして皆がリフレッシュして笑い合える時間が取れたんだから。それはラビのお陰だよ」
「…それは…まぁ…」
否定はできない。
煮え切らずとも渋々頷くラビに、南はただただ嬉しそうに笑うから。
眩しいものを見るように、ラビは視線を逸らした。
「はぁあ〜」
「…なんで溜息」
「だって、なんつーか…南って狡いよな」
「何が」
「なんでもねー」
そんなに嬉しそうに感謝されてしまえば、これはこれで悪くなかったかも、なんて思えてしまう。
折角南国の島で愛しい人との一時、という願望が絶たれてしまったのに、どこか充足感に包まれてしまう。
そんな自分が単純でいて、納得してしまうのだから悔しい。
「そういう時って絶対教えてくれないよね」
「教える程大層なもんでもねぇさ」
「…もう」
何かとフランクで友という垣根を軽々越えてくるラビだが、肝心な所へは安易に踏み入らせない。
これ以上の返事は無理だと悟ると、南は溜息混じりに辺りへと視線を変えた。
賑わう科学班の面々で埋まっている、青の洞窟。
まだ奥へと続く洞穴とは別に、細い横穴を見つけた。
覗けば天井の低い細い道が続いている。
先は見えないが、水中から上がる光のお陰で真っ暗闇ではない。
(…あ)
ふぅわりと微かな風が南の頬を撫でる。
「…ラビ」
「なんさ?」
「こっち」
「?」
暫く横穴の奥を覗いていた南は、隣にいたラビを呼ぶと横穴の中へと水中を蹴り進んだ。