第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
「こうして着れば透けることもないだろうし。うん、なんとかいけそう」
「ありがとう雪ちゃん…!」
「どう致しまして。後はアレンが傍についてあげてれば大丈夫でしょ。ちゃんと守ってあげてね?」
「勿論です」
元々白いスカート状の水着を履いていた椛だからこそ、白シャツ姿にも違和感はない。
間近でよくよく見ない限り、水着を着ていないことには気付かれないだろう。
「椛、胸元きつくなったらすぐ言って下さいね」
「うん、ありがとう」
「そうだ。もう一つの水着に着替えに戻りますか?」
「ううん、これでいいよ。折角海に来てるんだから、もっとアレンくんと一緒に楽しみたいな」
「…そっか。わかりました」
素直な思いを口にする椛に、ふやりとアレンの表情も柔らかく変わる。
特別な場所で、特別な思い出作りを。
当たり前のように言葉を交わし実行できている二人を、雪は眩しいものを見つめるように目を細めた。
(…いいな)
浮かぶ感情は一つ。
自分もそうしてただ神田に傍にいて欲しかっただけだ。
しかし椛のように愛らしい仕草で頼むことなどできないだろうし、アレンのように神田は優しく応えたりしないだろう。
胸元に手を当てたまま視線を下げる。
そんな無言の雪に、不意に椛が辺りを見渡した。
「あれ?雪ちゃん、神田くんは?一緒じゃないの?」
雪と神田の関係は知っている。
食堂や修練場でよく見掛ける時のように、当たり前に二人でいると思っていたからこそ疑問が湧いた。
「ああ、うん。ユウはあんな格好だしね。海ではしゃぐようなタイプでもないから」
「そういえばきっちりズボンとシャツ着てましたね…だから尚の事見てて暑苦しかったんですが」
苦笑混じりに雪が指差す先には、ビーチの大きなパラソルの下。
日陰で胡座を掻いている彼は、微動だにする気配がない。
「でも、折角海に来たのに…」
「私もそう言ったんだけど、"なら行ってこい"って背中押されちゃって。お手上げ状態」
そう言って軽く片手を上げる雪は、覇気のない笑顔だった。