第3章 真っ赤な眼
「…どなた?」
その声は、アリアそのものだった。
只、昔と同じ様な人懐っこさは感じられない。寧ろ彼女の赤い眼からは、冷たささえ感じられた。
「名乗らずに失礼を。
俺はキリトだ。君は…」
再会できた喜びを表に出さぬ様、平常心を装った。
「…霊夢。幽霊の“霊”に“夢”で、霊夢」
アリア——いや、霊夢は、本を閉じて持っていた鞄にしまって言った。
「キリトって、どう書くの?」
それが漢字の事だと理解するのに、少し時間がかかった。
俺達天使は、その殆どがカタカナ名だ。稀に漢字が本名だという奴がいるが、その数は極端に少ない。
しかし、この日本は殆どの者が漢字名を使う。其処は盲点だった。
俺は頭に浮かんだ漢字で、パパッと答えた。
「…霧がかかるの“霧”に“人”で、霧人(きりと)だ」
「…ふうん…」
伏せ目がちな睫毛が影を落とす。その姿はミステリアスで美しく、思わず見惚れてしまった。